けれども,幸いなことに,高根沢町と芳賀町の境あたりから,五行川の堤防がサイクリングロードになっている。真岡までサイクリングロードが続いている。作ってから維持補修はあまりしていないようで,舗装はけっこう傷んでいるところもあるんだけども,車は絶対に通らない。これならぼくでも自転車で行けると踏んだ。
● 中学に入って自転車通学になった。友人と3人で遠出をしてみようってことになった。宇都宮方面に向かったんだけど,鬼怒川の橋まで行ったところで気力が切れた。疲れてしまったんですな。
そのとき以来の長距離ランになる。まず問題はあるまいと思うものの,はやりちょっとはドキドキした。小さな冒険に出る気分になった。
● 6:35に家を出た。格好はかなりいい加減。サイクルスーツなんぞというものは着用しない。普通の半ズボンにTシャツ。カジュアルなソックスに靴ではなくてサンダル(踵を押さえるバンドが付いているもの)。自転車用のヘルメットは装着した。
会社に着いたら着替えるための下着と仕事着一式をリュックに入れた。それと靴。職場でサンダルでいるわけにはいかない。
その靴がけっこうかさばる。背中がリュックに覆われてしまうと汗がひかなくなるので,できれば大きめのフロントバッグを装着して,荷物はそこに放りこみたいんだけど,そこまでの準備はしていない。
● 自宅を出た直後から車のときとは違うレートを辿る。距離がたいして違わなければ,とにかく車が少ない道を行きたい。この辺ではまだぎこちない感じ。自転車の扱いに慣れていない。
まもなく県道宇都宮烏山線を横切るんだけど,その前にぼくのようないい加減なライダーではなく,キチンとしたナリのライダーとすれ違った。
車での通勤路である県道石末真岡線に出る。ここからしばらくはこの道路を車と併走することになるが,ありがたいことに自転車通行可の歩道が付いている。この時間帯だと登校する中学生にも遇わない。自転車も歩行者もいない。独占的に使用できる。
● このあたりから,だんだん自転車の取り回しに慣れてきた。自転車が自分の体の一部になってくる快感を感じる。
いつも車で走っていた道路が,歩道を自転車で走るだけで別物に見えてくる。新鮮だ。
● サイクリングロードの起点が近づいてきた。左にハンドルを切って,農道に入る。数分で県道北高根沢氏家線にぶつかる。この道路をしばらく走って,また左に曲がると五行川(サイクリングロード)に至る。
のだが,この県道北高根沢氏家線がこの行程で一番の難所といえばいえる。車の交通量が多い。路肩がそれなりに広いのでさほどに危険はないんだけどね。
五行川サイクリングロードの起点:一切行橋(芳賀町) |
● サイクリングロードの起点に来たとき,自転車を止めた。写真を撮っておこうと,リュックを手探ったんだけど,ケータイが見つからなかった。ま,写真はいつでも撮れるか。
サイクリングロードに入ってからはもう快適の一語に尽きた。体感としてはほとんどフラットの道路なんだけど,五行川の下流方向に走るわけだから,わすかであっても下り勾配が付いているはずだ。楽に走れる道理だ。
自転車ライダーと二度すれ違い,ママチャリに乗っている爺さんを追い越し,犬を連れて散歩していたオッサンとすれ違ったほかは,悠々とわれひとり行くの贅沢さだ。もちろん,何度も一般道と交差するから,その都度自転車を止めて,左右を確認しなければならない。しかし,それを煩わしいと言ってはバチがあたるだろう。
● 通勤時の車は動くコンサートホールだった。カーオーディオを超える音響設備をぼくは持っていないので,音楽を聴きながらの通勤は,ぼくには至福の時間だった。
自転車をこぎながら音楽を聴くこともやろうと思えばできる。ケータイを使えば造作もない。が,イヤホンで耳を覆ってしまうと,せっかく五行川のサイクリングロードを走っているのに,川のせせらきや鳥の鳴き声を遮断することになってしまう。
ここは,安全面も考えて,音楽よりは自然の音に耳を貸すことにした。ま,当然のことだけど。
● 自分の体が空気を切っていく音が心地よい。ドロップハンドルの一番下を握ると,地面がグッと近くなる。たいした速度は出ていないだろうけれど,目の前の地面がどんどん後ろに流れていく。スピードを実感できる。これも心地いい。
● 道中最大のランドマークは「道の駅はが」だ。温泉(芳賀ロマンの湯)も隣にある。復りは温泉に浸かっていくのもいいかなぁ。
さらに下流に行くと,野元川が右側から合流する。野元川の起点は高根沢,しかもわが家の近くにある。そもそも高根沢から真岡までは大きな川を渡ることもなく,山を越えることもなく,平坦なところを走るだけだ。一衣帯水といっていい。大昔はたぶん,高根沢の全域が芳賀郡だったのではないか。
前方には筑波山が大きくなってくる。見慣れた風景だ。八溝育ちのぼくには心の深いところで馴染んでいる風景。ホッとする風景でもある。
● この時間帯から釣り竿を垂らしている男がいた。定年後の悠々自適な生活を楽しんでいるのだろうか。人生の達人という言葉が浮かんできた。お金を使わない豊かな生活ってのがあるはずだ。彼の佇まいから,そんなことを思ってみた。
もっとも,彼からぼくを見た場合も似たようなものかもしれない。こんな朝っぱらから自転車を漕いでやがる,別に用事があるようにも見えない,まだ若そうだが恵まれたやつもいたものだ,と。
● 家を出てからちょうど100分後の20:15に会社に着いた。腕時計は置いてきた。車だと25キロなのだけど,サイクリングロード経由だと30キロを超えるらしい。休憩も給水もせずに走ったから,平均時速で20キロはあったと思うので(→実際はもっと遅かった)。
気分としては1時間も走ったろうかって感覚だった。100分を1時間に感じるわけだから,要するに快適な道行きだったのだとわかる。
● 舗装が傷んでいる箇所がいくつもあって,タイヤの細いロードバイクでは辛いかもしれない。ぼくのは20インチのそれなりに太いタイヤ。ロードバイクは高くて買えなかっただけなのだが。
唯一,途中で尻が痛くなってきたのに参った。想定の範囲内ではあるのだが。
● 到着したときには汗だくになっているかもしれないと思っていたのだけど,給水しなかったこともあってか,それほどにはならなかった。
会社にシャワーはある。のだが,使うには相当以上に度胸がいるシロモノで,ぼくは使ったことがない(過去においても,このシャワーを使った人はたぶんいないだろう)。
裸になってタオルで汗を拭き,全部着替えただけで何とかなった。